65歳で退職した後、できるだけ税金を払わないで済むようにするには、収入をどのくらいに抑えればよいのでしょうか?

配信日: 2025.06.05 更新日: 2025.06.06

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65歳で退職した後、できるだけ税金を払わないで済むようにするには、収入をどのくらいに抑えればよいのでしょうか?
会社員であった方が、65歳で退職し、老齢年金とその他の収入で生活する場合「所得税が課税されないか」、「課税されたとしてもその課税額を抑える生活ができないものか」と考える方も多いことでしょう。
 
今回は、老齢年金に対する課税の仕組みを解説するとともに、所得税が課税されない収入額について考えてみます。
辻章嗣

執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)

ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
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老齢年金に対する課税の仕組み

老齢年金においては、年金の収入金額から公的年金等控除額を差し引いた「公的年金等の雑所得額」に対して課税されます(※1)。65歳以上の方に支給される公的年金等の雑所得額は、図表1の計算式を用いて算出します。
 
図表1

図表1

 
年金の収入額が110万円以下の方は、雑所得額が0円となるため、課税されることはありません。
 
また、年金の収入額が110万円を超え330万円以下の方は、年金収入額から110万円を差し引いた額に対し課税されます。
 
なお、公的年金等の収入額には、老齢基礎年金、老齢厚生年金に加えて、企業年金やiDeCo(個人型確定拠出年金)等の年金が含まれますが、生命保険契約等による個人年金は含まれません。
 

所得税の仕組み

所得税は個人の所得に対してかかる税金で、1年間の全ての所得から所得控除額を差し引いた残りの金額(課税所得)に税率を掛けて算出されます(※2)。
 
所得税額=(所得の合計金額-所得控除)×税率
 

1. 所得の種類と所得控除

所得は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得および雑所得の10種類に区分されており、所得ごとに所得控除が定められています。
 
例えば、給与所得には給与所得控除が、一時所得には一時所得控除があります。そして、控除後の各所得を合計した額が所得合計額となります。
 

2. 所得控除の主な種類

課税所得額は、課税される人の所得合計額から所得控除を差し引いて算出します。所得控除には、基礎控除、配偶者控除、社会保険料控除など15種類が設定されています。
 
(1)基礎控除
納税者本人の合計所得金額が2350万円以下の場合、基礎控除額は令和7年度から合計所得金額に応じて図表2の通りになります(※3)。
 
図表2

合計所得金額 基礎控除額
132万円以下 95万円
132万円超336万円以下 88万円*
336万円超489万円以下 68万円*
489万円超655万円以下 63万円*
655万円超2350万円以下 58万円
*印は、令和9年分以降58万円

(※3を基に筆者作成)
 
(2)配偶者控除
本人の合計所得金額が900万円以下の納税者に配偶者がいる場合、配偶者控除額は38万円(配偶者が70歳以上の場合は48万円)となります(※4)。
 
(3)社会保険料控除
納税者が支払った社会保険料は、全額控除することができます。
 

老夫婦のみの世帯にかかる所得税の計算

65歳以上の世帯主と配偶者の夫婦を例に、所得税を計算してみましょう。
 

1. 世帯主の公的年金等所得額

世帯主の公的年金等の収入額(X円とする)が110万円を超え330万円以下である場合、公的年金等の収入額から110万円を控除した(X円-110万円)が公的年金等の所得額となります。
 

2. 世帯主の課税所得額

世帯主の収入が年金のみであったとすると、公的年金等の所得額から、基礎控除と配偶者控除、および社会保険料控除(Y円とする)を差し引いた額が課税所得となります。
 
課税所得=公的年金等の所得額-基礎控除額-配偶者控除額-社会保険料控除額
 
仮に合計所得金額が132万円以下(年金収入232万円以下)の年金受給者に限った場合、基礎控除額は95万円となりますので、課税所得は下式で計算されます。
 
課税所得=(X円-110万円)-95万円-38万円-Y円
 
合計所得が132万円超336万円以下(年金収入232万円超446万円以下)の年金受給者に限った場合、基礎控除額は95万円となりますので、課税所得は下式で計算されます。
 
課税所得=(X円-110万円)-88万円-38万円-Y円
 
したがって、課税所得額がゼロとなる公的年金等の収入額は、以下の通り236万円(令和9年以降は206万円)に社会保険料の支払額を足した額となります。
 
X円=(110万円+88万円+38万円)+Y円
 

まとめ

老齢年金のみで生活する老夫婦の場合、一般的に老齢年金の収入合計額が「236万円(令和9年以降は206万円)+支払う社会保険料の額」以下であれば、所得税を課税されることはありません。
 
※20256/6 記事を一部修正しました。
 

出典

(※1)国税庁 タックスアンサー No.1600 公的年金等の課税関係
(※2)国税庁 タックスアンサー No.1000 所得税のしくみ
(※3)財務省 令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について
(※4)国税庁 タックスアンサー No.1191 配偶者控除
 
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

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