妻は喘息があるので、万が一に備えて設備が整っている大学病院での出産を希望しているのですが、分娩費用が75万円!? すべて自費で払わなくてはいけないのでしょうか?
配信日: 2025.05.27

本記事では出産費用がいくらかかるのか、自己負担を軽減する制度にはどのような制度があるのか紹介します。

ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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出産費用はいくらかかる?
厚生労働省の資料「第5回 妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会 出産費用の状況等について」によれば、2023(令和5)年度の入院分娩費用など出産費用は全国平均で50万6540円でした(正常分娩のみ・室料差額等を除く)。
施設別に見ると、公的病院では47万3990円、私的病院では52万4345円、診療所・助産所では51万754円となっています。
都道府県別で見ると、平均出産費用が最も高い東京都62万5372円と、最も低い熊本県38万8796円の間には約24万円の差があります。
なお、出産費用の内訳は以下のとおりです。
入院料 12万2898円
分娩料 29万8898円
新生児管理保育料 5万1572円
検査・薬剤料 1万5738円
処置・手当料 1万7433円
(A) 室料差額 1万8429円
(B) 産科医療補償制度 1万1767円
(C) その他 3万7847円
妊婦合計負担額 57万4583円
出産費用(妊婦合計負担額-(A)~(C)) 50万6540円
※産科医療補償制度とは、分娩に重い脳性まひとなった赤ちゃんに対し、迅速に経済的な支援を行うための仕組みで、分娩を取り扱っている医療機関等が加入しています。
出産一時金
健康保険や国民健康保険の被保険者等が出産(妊娠12週以上の場合は死産・流産も含む)したときは、出産育児一時金が支給されます。支給額は、1児につき50万円です。妊娠週数が22週に達していないなど、産科医療補償制度の対象にならないケースでは、支給額が48万8000円になります。
会社を退職後6ヶ月以内に出産した方は、以前加入していた健康保険から出産育児一時金が支給されます(ただし、1年以上継続して会社に勤務していた場合に限ります)。加入している健康保険によっては、独自の付加給付を実施していますので、国民健康保険よりも支給額が多い場合があります。
なお、「出産祝い金制度」を設けている自治体がありますので、ホームページで調べてみましょう。
出産育児一時金の申請方法
出産育児一時金は、基本的に出産後に申請して支給されるため、通常は出産時に高額な費用を一度自己負担する必要があります。このような経済的負担を軽減するために、「直接支払制度」や「受取代理制度」といった仕組みが用意されています。
「直接支払制度」は、出産育児一時金の請求を行い、保険者から支払機関(国保連)を通じて医療機関等に支払われる仕組みです。「受取代理制度」は、被保険者が出産育児一時金支給申請を行い、被保険者に代わって医療機関等受け取る仕組みです。
これらの制度を利用すると、窓口での支払いがあらかじめ出産費から出産育児一時金の支給額を差し引いた金額で済みます。
出産費が出産育児一時金の支給額より少ない場合は、その差額が後日、保険者から支給されます。
出産手当金
出産手当金とは、会社の健康保険に加入する被保険者が産前産後休業(産休)を取って、給与が支払われない期間に支給される手当のことです。会社員に扶養されている配偶者や、国民健康保険の加入者の場合は対象外です。
出産手当金は、出産予定日を基準に出産日前の42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産日の翌日以降56日のうち、会社を休んで給与が支払われなかった日数分について支給される制度です。
支給額は、日給相当額(支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額の平均額÷30日)の3分の2です。出産予定日より実際の出産が遅れた場合は、遅れた日数分も支給されます。
支給されるのは、申請してから1~2ヶ月後です。
医療費控除
自己または自己と生計を一にする配偶者その他の親族のために出産費用を支払った場合には、原則10万円を超えた分を所得から控除(最高で200万円)できます。
出産に伴う一般的な費用のうち次のような費用も医療費控除の対象となります。
●妊娠と診断されてからの定期検診や検査などの費用、また、通院費用
●出産で入院する際に、電車やバスなどの公共交通手段を利用することが困難であることから、タクシーを利用した場合のそのタクシー代
●病院に対して支払う入院中の食事代は、入院費用の一部として支払われるもの
ただし、医療費控除の計算において、生命保険契約などで支給される入院費給付金や公的医療保険で支給される高額療養費、出産育児一時金や家族出産育児一時金、もしくは出産費や配偶者出産費などは、医療費から差し引かなければいけません。なお、出産手当金は所得の補てんですので差し引く必要はありません。
出産に関わる制度はいろいろありますので、申請を忘れないようにしましょう。
出典
厚生労働省 保険局 第5回 妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会 出産費用の状況等について(令和6年11月13日)
厚生労働省 出産育児一時金の支給額・支払方法について
全国健康保険協会 協会けんぽ 出産育児一時金について
全国健康保険協会 協会けんぽ 出産手当金について
国税庁 No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)
国税庁 No.1124 医療費控除の対象となる出産費用の具体例
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。