雨の日、通勤途中に足を滑らせて足をひねってしまった…。 通勤途中の軽傷でも労災っておりるの?

配信日: 2025.04.19

この記事は約 5 分で読めます。
雨の日、通勤途中に足を滑らせて足をひねってしまった…。 通勤途中の軽傷でも労災っておりるの?
会社員のBさんは、自宅からの通勤時に捻挫してしまいました。その日は朝から雨が降り、足元が滑りやすくなっていました。地下鉄の階段を下りている途中にうっかり足を滑らせて、足首をひねってしまったのです。
 
痛みを感じてはいたものの、「ちょっとひねっただけだし、放っておけば大丈夫だろう」と、Bさんは思っていました。
 
何とか会社までたどり着いたBさんに、上司から歩き方がおかしいことを指摘されます。通勤途中にねじったことを話したら、「労災で診察が受けられるから、病院で見てもらうように」と言われてビックリ! 「ちょっとひねっただけだし、業務中のけがじゃないのに、労災がおりるの? 」とBさんは思ったそうですが、実際はどうなのでしょうか。
林智慮

CFP(R)認定者

確定拠出年金相談ねっと認定FP
大学(工学部)卒業後、橋梁設計の会社で設計業務に携わる。結婚で専業主婦となるが夫の独立を機に経理・総務に転身。事業と家庭のファイナンシャル・プランナーとなる。コーチング資格も習得し、金銭面だけでなく心の面からも「幸せに生きる」サポートをしている。4人の子の母。保険や金融商品を売らない独立系ファイナンシャル・プランナー。

通勤時の災害にも労災が適用されます

労働災害保険制度は、業務上の災害の時だけと思われがちですが、通勤途中や帰宅途中に発生した傷病等に対しても保険給付が支払われます。業務上に発生した場合には「業務災害」「複数業務要因災害」、通勤時に発生した場合には「通勤災害」となります。
 
保険料を支払っていないから、加入しているかどうかわからないと思う方もいらっしゃいますが、労災保険の保険料は事業主が負担します。事業規模にかかわらず、1人でも労働者を使用する場合には、労災保険に入る義務があります。
 
労災保険における労働者とは、事業に使用される者で賃金を支払われる者をいい、業種や雇用形態によって加入に制限がかかることもありません。
 

「通勤」であるかどうかどうかが問題

では、軽い捻挫程度でも労災給付は受け取れるのでしょうか。
 
通勤災害の対象となるかどうかは、「通勤」中で発生したかどうかが問題になります。状態が軽いかどうかにより、給付内容が異なります
 
給付の種類には、診療にかかる費用(交通費、薬代も含む)の療養(補償)等給付をはじめ、休業(補償)等給付、傷害(補償)等給付、遺族(補償)等給付、葬祭料等、傷病(補償)等年金、介護(補償)などがあります。
 
ところで、通勤災害でいう「通勤」とは、就業に関し、

(1) 住居と就業の場所との間の往復
(2) 就業の場所から他の就業の場所への移動
(3) 単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動
を、合理的な経路および方法で行うことをいい、業務の性質を有するものを除くとされています。

(厚生労働省「労災保険給付の概要」より引用)
 
ここで、合理的な経路および方法とは、一般的に用いると認められる経路、交通方法です。経路が複数ある場合はいずれも可ですが、合理的な理由のない著しい遠回りは、合理的な経路ということにはなりません。
 

「通勤」からそれたらどうなるの?

通勤経路から外れた場合、その後に合理的な経路に戻っても「通勤」となりません。ただ例外もあり、日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定められたものを、「やむを得ない事由」によって、最小限度の範囲で行う場合には、逸脱または中断の間は通勤とされないものの、合理的な経路に復したあとは再び通勤ということになります。
 
厚生労働省令で定める行為とは、

(1) 日用品の購入その他これに準ずる行為
(2) 職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
(3) 選挙権の行使その他これに準ずる行為
(4) 病院または診療所において診察または治療を受けること、その他これに準ずる行為
(5) 要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的にまたは反復して行われるものに限る)

とされています。
 
例えば、帰宅途中に友人との飲み会に参加するために通勤経路からそれた場合、帰りに通勤経路に戻ってから被災しても通勤災害になりません。しかし、帰宅途中に医者の診察を受ける場合、通勤経路からそれた場所での被災は通勤災害になりませんが、その後通勤経路に戻ってから被災したら通勤災害となります。
 

仕事上のけがは健康保険で診察を受けてはダメ

診察を受けることにしたBさんですが、どうすればよいのでしょう。
 
原則、労災病院、または労災指定の医療機関を受診します。無償で治療を受けられます。療養の給付請求書に事業主から証明を受け、労災指定医療機関へ提出します。労働基準監督署で調査をして、医療機関に治療費が支払われます。
 
労災指定以外の病院で受診の場合、労働者が窓口での支払いをいったん負担します。事業主から証明を受けて、直接、労働基準監督署に療養の給付請求書を提出します。請求権は費用を負担した日ごとに発生し、費用を負担した翌日から2年が時効です。
 
給付は、傷病が治癒(症状固定)するまで受け取れます。
 
ここで気を付けたいことは、仕事中や通勤途中にけがをした場合は、健康保険で治療を受けることはできないということです。間違って受診してしまった場合は、病院に労災保険への切り替えができるかどうかを確認しましょう。
 
切り替えができる場合は、窓口で支払った分が返還されます。切り替えができない場合は、いったん、医療費を全額自己負担して、労災保険を請求しなければなりません。給付請求の際に会社の証明が必要ですが、どうしても会社が認めてくれない場合、労働局や労働基準監督署に相談しましょう。
 

出典

厚生労働省 労災保険給付の概要
厚生労働省 労災補償
厚生労働省 お仕事でのケガ等には、労災保険!
 
執筆者:林智慮
CFP(R)認定者

  • line
  • hatebu
【PR】
FF_お金にまつわる悩み・疑問 ライターさん募集